最近,授業で一橋大学の2007年度の過去問を解説していた時に,ある生徒から「"in terms of content"の訳し方が分からない」という質問を受けました。
その問題の表現は,次のような文脈に出てきます。
In fact, recent research has revealed only one significant difference, in terms of content, between male and female gossip: men spend much more time talking about themselves. Of the total time devoted to conversation about social relationships, men spend two thirds talking about their own relationships, while women only talk about themselves one third of the time.
(一橋大学2007年度 第2問 第3段落のみ抜粋)
(ちなみに,この段落を含む文章全体の要旨は,「男性は女性と違ってゴシップを好まないと言われているが,実際には女性と同じくらいゴシップが大好きである」というものです。)
質問をしてくれた生徒は,自分では "in terms of content" の意味がよく理解できなかったため,赤本の全訳を見たところ,「実際,最近の調査によると,内容の点では男性と女性の間のうわさ話に顕著な違いはわずか1つしかないことがわかった」と訳されているのを見つけました。
それを見て,この生徒は「この赤本の訳はおかしい」と思ったそうです。いわく,「会話の内容は,男性も女性も『自分自身のこと』で一致しているのだから,『内容の違い』では意味が通らない」ということでした。
この生徒の着眼点のなんと素晴らしいことでしょう! そして,彼の言う通り,赤本の和訳は完全なる間違いなのです。ここでの content を「内容」と訳してしまうと,直後の記述と矛盾する,支離滅裂な文になってしまいます。
では,何と訳すのが正しいのでしょうか? content には確かに「内容」という意味もありますが,その場合は contents のように複数形で用いるのが普通です。一方で,単数形で用いる場合は,「含有量」(the amount of a substance that is contained in something else)という意味を持ちます。実際,オックスフォード類語辞典で content を引いてみると,真っ先に amount と proportion の2つが出てくるのです。
そこで,proportion と同じく「割合」という訳語を使って先ほどの英文を和訳してみると,「実際,最近の研究によると,男性と女性のゴシップには,その割合の点において唯一の顕著な違いがあることがわかった」となり,直後の「男性は自分の交友関係の話題に会話の3分の2を費やすのに対し,女性は3分の1しか費やさないのである」という文とも意味的につながるようになります。
赤本において,一橋大学の過去問解説となれば,それなりの地位がある先生が執筆を担当しているはずですが,content を「内容」と訳すことに何の違和感も覚えなかったのでしょう。私に質問してくれた生徒の観察眼と思考力の方が上だったということです。
このように,たとえどんなに有名な先生が書いている本にも,間違いはあります。
青藍塾では,そうした誤りを見抜けるような「観察眼」「思考力」そして「英語力」を,生徒たちと日々鍛えています。少しでもご興味を持っていただけた方は,どうぞお気軽にお問い合わせください。
ありがとうございました。
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